行政書士試験の中でも大きな配点を占める記述式問題。記述式対策が合否を左右すると言っても過言ではありません。いろいろな対策法があるけれど、結局みんなどうやってるわけ?と疑問に思っている方へ。合格者が一例をご紹介します。
行政書士試験の悩みどころは記述式
配点が大きい、何が出るか分からない。行政書士試験の中でも記述式問題は悩みの種です。受験前ももちろんですが、受験後も採点がどうでるかヤキモキしながら待たされる人が多数。そんな記述式をどう対策するかは、メンタルの持ちようにも影響する重大テーマです。
一般的な対策はこう?
個人的に記述式問題の対策は、実はそんなに数多くのバリエーションが存在するわけではないと予想しています。予備校などで言われるのは「まず書いてみましょう」とか「基礎知識をおろそかにせずに理解しましょう」…といったところでしょうか。いざ実践するとなると途方もない労力です。
まず書いてみるしかない
マークシート方式と違って、実際に文字を書かなければいけない記述式。この「文字を書く」ということが最初のハードルです。法律には難解な用語が沢山。「瑕疵の治癒」なんて何度も練習して覚えるしかない!とすると、やはり手を動かし鉛筆で書いていくことが一番王道の対策ではあるのでしょう。
どこまで記述式対策に時間がとれる?
たかが40文字。されど40文字。論点は膨大。しかも一度書いただけでは覚えられませんから、これを2周、3周…?択一の対策にも時間を割くことが大前提で、記述式にかかりきりというわけにもいきません。とすると、「ひたすら書いて書きまくれば良い!」なんて安易な話ではありません。
どんだけ勉強して何点くらい?が知りたい
このように悩みの多い記述式対策ですが、私が受験時代に一番知りたかったのは「みんなどうやってるの?」「どのくらいやればマトモに書けるの?」というものでした。それはSNSを開けば答えがあるのでしょうが、単純に「この前の模試で●点とれた!」「これくらい書けた」という情報が欲しいのではありません(そんなの聞いても落ち込みますしね。)
もっと他の人が日頃どんな風に記述式に取り組んで、どれくらいの学習時期にどれくらい書けるようになるのか、という相場のようなものが知りたかったのです。それが分からないから学習計画を立てるにしても、なんだかなぁ…。もうここは実際試験に当たってみないと計り知れないなぁ…と感じていたのでした。
模試を受けても予測がつきにくい
行政書士試験では民法・行政法の分野から2問1問しか出題されないわけですから、模試と本試験の乖離は必然的に大きくなります。
1回の模試では、知っている問題が出たか・出なかったかで点数が大幅に変わってしまう。誰しも多かれ少なかれ知識にムラがある状態で本試験に臨むわけですから力試しという意味で模試は有用です。しかし、やはり1回の模試で40点とれたからその人は40点の実力である、とは言えません。問題が変われば0にも60にもなってしまうかもしれない。模試の結果に一喜一憂しないことが大切です。
合格前体験談|記述問題の対策手順
私が行政書士試験にかけた3ヵ月半のうち、記述式対策に取り組んだのは2ヶ月程度。具体的な教材の回し方は以下の通りです。
1周目:約半数を書いて解いた
学習初期は『LEC 出る順 40字記述式・多肢選択式問題集』を使用しました。文字を書くこと自体に戸惑った1周目。問題を読んでもぜんぜん答えが思いつかない状態です。じっくり解答解説を読み込み書いてみましたが、傍から見れば模範解答をひたすら解答用紙に書き写していただけかもしれません。
半分ほど終えたころところで回しきれなくなり、残りはザッと目を通したくらいです。
2周目3周目:頭の中で解いて読んだ
学習中期からは『ゆーき大学記述式神ノート』を購入し、そちらを優先させました。そこでもやはり自分で解答を書くということは全くできず、問題文を読んですぐに解答を見て(解説動画を聞いて)…という状態。そこで、ただ模範解答を用紙に書き写すだけの作業は最小限にしようと決めました。頭の中で考えてみて、覚えたいフレーズや漢字を部分的に要らない紙に殴り書く作業だけをしていました。
そしてゆーき大学さんの教材は動画付きだったので(というか動画メインで紙はレジュメ程度だったので)、ひたすらそれを繰り返し聞き、どんな論点があるかを覚えました。
(記述式神ノートのレビューは↓こちら)
試験直前:5日前にザッと読み
問題文を読んで、「これってもしかして、こういうことを書けばいいのかな?」…と連想できるようになったのは、試験2週間前…ひょっとしたら1週間前くらいだったかもしれません。ゆーき大学神ノートの問題は一応頭に入ったような…という状態でしたが、とにかく時間が足りない。LECの問題集も頭から見返して重要なフレーズをひたすら暗記しました。
この時期もやはり1問1問を書いてマルつけて写してと落ち着いて作業することは、ほとんどできませんでした。大半の問題は目を通してブツブツ呟いたりしながら頭に入れていきました。
学習の成果は?
以上をまとめると、「自分なりに解いてみよう!」という状態になる前に試験直前に突入してしまい、慌てて最後の暗記つめこみをした。…というお粗末なものでした。そしてその結果は…
2ヶ月の対策の結果は28点
60点満点のうち28点の結果。正直パッとしないですし、「この程度の対策なら良くてこんなもんだろう」と察していただけたかもしれません。しかし、記述対策をがんばったおかげで択一の点が伸びました。どうやっても模試で150点までしかとれなかった択一が本番184点に伸びて、択一のみで合格点に到達できたのでした。心穏やかに年末を迎えられたのは大きいです。
学習全体と記述式の上達
学習全体の状況と記述式の仕上がりはもちろん連動しています。逆からいえば、両者が連動するように学習を進めるのがコツかもしれません。
学習全体の仕上がり | 記述式の仕上がり | |
1周目 | テキストと択一の問題集・過去問集を1周した! | 単語を1個思い浮かぶか?大半の問題は何の話かサッパリ |
2周目 | 各教材を往復して理解がやや深まる | ほぼ上記と同じ。しかし心は「あれ、この話勉強したはずなのに!」と感じる。前より論点が想起できるようになってきたかも? |
3周目 | 択一問題集をゴリゴリ回し、択一の点数アップをねらう | 単語が2個思いつく問題や「あ、これあの話だよね」と想起できることが増えてきた。(しかし、相変わらずサッパリ分からない問題も何割かある) |
「よし!記述式に取り組もう!」と決めて始めてから、「点数がつくような回答」「完璧じゃないけど自分なりに書いてみたもの」…が出せるようになるまで、けっこう時間がかかるものですね。(なお、学習記録の全容は以下のリンクにも)
例題と学習の手順
さらに具体的に、どんな風に問題にあたっていたかお話します。以下は令和3年度の本試験問題です。(この論点は各教材でも取り上げられています。)
問題46 Aが所有する甲家屋につき、Bが賃借人として居住していたところ、甲家屋の 2
令和 3 年度 行政書士試験問題 問題46
階部分の外壁が突然崩落して、付近を通行していたCが負傷した。甲家屋の外壁の
設置または管理に瑕疵があった場合、民法の規定に照らし、誰がCに対して損害賠
償責任を負うことになるか。必要に応じて場合分けをしながら、40 字程度で記述
しなさい。
解答例はこちらの問46をご覧ください。
問題文を読んで10秒でチェック
まず何かしらのキーワードを出せる(想起できる)か、そして何の話かわかるか。学習初期なら何も分からなくて当然。学習が進むと「『所有者は無過失責任』っていう、あの話じゃない?」と想起できるようになりました。
すぐに解答を読む
解答を読みます。すると所有者の話の前に「占有者が損害発生防止のため必要な注意をしていたこと」というのが重要なフレーズだったことが分かりました。学習後期になっても、「あー何の話かは何となく分かったけど…。えーこれってこういうことを聞いてたのか」と感じることが多いですよね。
採点よりも重要なこと
たとえば、今回なら所有者の前に占有者の責任を考えなければいけなかった。問題文にも「誰が」と書いてあるじゃないか。
…こんな風にギャップを実感するところが勘所です。単調に「この用語を書けば点数が入るのか」と採点してたときは、やってて楽しくありませんでした。学習初期は用語だけに注目してしまい、「あ~こんなの暗記していないと無理じゃん」と思っていましたが、それも残念な考え方でした。
思考と解答のギャップ
「あー私なんでコレこうだと思ったんだろう」とか「はぁー?そんな細かなこと聞いてくるわけ?」としみじみ感じて、自分の思考と求められている回答にどんなギャップがあるのかを考えます。考えられるようになってきてから、記述式の問題にあたるのが少しずつ楽しくなってきました。
どれだけ個人的な問題として、実感をこめて取り組めたかって大切なことだと思うのです。思い入れのある問題は、それだけ印象に残ります。
気持ちが少し落ち着いてくると「あーそういや民法では、”順序”ってイチイチ問題になるんだったなぁ。こういうとこだよなぁ」と、先生が言ったあの言葉、この言葉が頭をかすめてきます。
テキスト・動画での復習
解いて解説を読み終わったら他の教材で復習します。
重要なキーワードが想起できなかった → テキストで該当するページを読み、印をつけておく
話の大枠や前提知識がわからなかった (例「占有」と「所有」の違いってなんだっけ??) → テキストの該当する章を最初から読んだり、場合によっては教科の最初の方のページも読む。
…これに必要に応じて講義動画の見返しもはさんでいきます。
スキマ時間の活用
法律のあれこれを自分なりに考えたい。じっくり考えたい。…となると机にかじりついているだけでは補いきれない時間が必要です。
書く時間は机に座る必要がありますが学習の大半は立ちながら、歩きながら、育児をしながら、家事をしながら行っていました。「よし!今から2時間記述対策をするぞ!」と決めて取り組んだことは一度もありません。家事と育児の合間に問題を読んで、「あ~あの問題って何なんだろうな~」「あの解説は結局どんな話だったのかな?」なんて考えながら洗濯物を片付けたりしていました。
つまりスキマ時間を活用して問題にあたり、日常動作をやりながら脳内学習をしていたのでした。書いた問題は少ないけれどこの時期は色々なことを考えて考えて考えました。
合否をわけた記述式対策のポイント
解いた、解説を読んで理解した、テキストを見返した。問題と丁寧に向き合うんだ。よし、これをあと100問がんばろう!最低3周ね!…と、こんな風に話を締めくくっていいものでしょうか。そんなのシッカリできる人いるんかー-い!
さて、ここからが本題かもしれません。私はすべての問題にじっくり向き合うことはできませんでした。1周目も2周目も3周目以降も。そしてそこが勘所だったんじゃないかと思い、ここからメンタル的なことをご説明します。
自分なりの優先順位づけ
記述式の問題を解いて「はぁぁぁ?こんなん出るの?ほんとに出るの????」と勝手に腹を立てる。(作ってくださった方に申し訳ない…。)
こんな風に感じた問題はテキストでどのような扱いをされているのかをチェックします。膨大な量のABランクの論点から年3問しか出題されないわけです。Bランクの中にもグラデーションがあります。自分なりに「あぁこれはもう出たら諦めるかな」とか「もうこの用語だけ丸暗記しよう」と判断して切り上げる場面もありました。
そして「これは複雑すぎるから未来の自分がんばれ!」という問題もありました。実際に次の周回でストンと分かることもあるものです。
物量に圧倒されないこと
こんな風にベストではないかもしれない自分なりの選択をしていくこと。これって案外大切だったと実感しています。AランクはAランク、BランクはBランク、と画一的に処理していくとやらされてる感が強くなってしまい物量に潰されてしまう。物量に潰されないことは多くの人に共通するテーマではないでしょうか。
記述式の「勝ちメンタル」
なにせ、択一対策のために多くの体力を温存しておかなければなりませんから、記述式に潰されてはいけない。私たちが狙っているのは「記述式対策したら択一対策にもなったよ!一挙両得!」というところ。両者の出題内容は完全には重複していません。しかし、心は「知識が増えたし、前より理解が深まった気がする!」「心なしか択一も前より解ける気がするぜー!」という境地を求めているわけです。(「心なしか」で良いんですよ。)
上記の通り、記述式の問題にぶちあたり、じっくり頭の中で考えた時間は自信につながりました。「書く」はもちろん必要で、でもそれだけだけでは不十分。「自分の頭で考えた」ということが自信につながったのでした。というか、ホントに記述は書いても読んでも急に点数があがるわけではないですから、学習を通じて唯一確実に得られたものって心の充足感に尽きるのです。
一番キケンな記述式対策
一方で…
記述式をやったら沼って心がすさんでしまった。「自分はバカだからムリなんだ。今年は受かる気がしない」。…そんな風に感じてしまったら、もう記述式対策をすることそのものが受験生命にかかわってしまう。そんな危ない橋を絶対にわたってはいけないのです。このわけわからない心の落とし穴にはまらずにいられることって、それだけで一つの才能だし、合格に直結するスキルだと思いませんか?
最後に ~当たればラッキー記述式~
1年3問しか出題されず、1問あたりの配点が大きい記述式問題。対策した論点が当たれば最高ですし、当てるために学習を積み重ねていきたいところです。
しかし!試験委員の先生方は予備校の予想通りの問題は避けるでしょうし、新しい切り口で作問される可能性が高い。ということは、やっぱり「当たればラッキー」というくらいの割り切りもどこかでは必要。
長文にお付き合いいただきありがとうございます。今も法律の勉強を続ける中で、「あの時、記述式に取り組んでおいてよかったな、あれは良い時間だったな。」…と、感じます。
法律に興味をもってチャレンジした行政書士試験。皆さんにとって、記述式の学習が充実した時間となることを祈っています!
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